私が心臓外科医の頃、術後多くの時間を集中治療室で過ごしました。殆どの方は経口摂取が出来ず、点滴あるいは経管栄養で水分・カロリーを入れていました。私たち外科医にとっては血圧・脈、あるいは酸素飽和度等心肺機能ばかり気になる、そしてあまり関心のないのが腸でした。

患者さんが原因不明の熱を出す。どうして?と悩むことも多く、検査してもわからず、とりあえず抗生物質を投与してしばらくしたら解熱する、そんなことの繰り返しでした。ある時、心臓弁膜症の方の術後の回復が遅れ、術後10日目ごろに高熱が出ました。全身をみると、腹部が異常に張っている、グル音(腸の動く音)が聴取できない。経口摂取をしていない方でしたが、それでも胃腸液は溜まるのです。

もしかしたら熱の原因は腸管が胃腸液で拡張したためではないか?と考え、調べるとありました。リーキーガットです。リーキーとは液体が漏れるという意味を持つリークの形容詞、ガットは腸です。つまり、リーキーガットは腸の粘膜に穴があき、異物(菌・ウイルス・タンパク質)が血中に漏れ出す状態にある腸のことをいいます。

私たちの体は外からの侵入者(ウイルス・細菌等)に対して、強力な防衛力を持っています。まず口から入ってくる、食道、胃と通過する間も酵素や胃酸などが殺菌力を働かせ、病原体を殺してくれます。そこを何とかすり抜けた病原体は消化吸収の吸収を担う小腸に到達します。そして小腸では、粘膜にパイエル板と呼ばれるリンパ組織があり、病原体を殺傷するのです。

これで少しおわかりでしょうか、先ほどの患者さんは腸管が拡張しパイエル板が断裂し、細菌が血液中に漏れたための発熱だったようです。胃チューブ・浣腸等で胃液・腸液を排出することにより徐々に患者さんは平熱に復しました。

今では在宅で寝たきりの方を診させて頂くことが多いのですが、外科医時代の教訓から何日も排便のない方には特に気を遣っています。

さて小腸のパイエル板、総面積はどのくらいあるのでしょう?(日本人の平均的な小腸の長さは6~7メートルです) これがなんと、テニスコートの1.5倍あるのです。次回お話しますが、腸は賢く、第2の脳といわれて脳と密接に関係して(腸脳相関)私たちを守ってくれているのです。

We should be very careful to improve intestinal environments suitable for our health.

広いテニスコートで思いっきりプレーをしてみたいですね。