昭和33年11月東海道本線東京~大阪間を6時間50分で結ぶ特急こだま号が登場しました。祖父母の住む京都、私が住んでいた東京の距離が著しく短縮された瞬間でした。それまでは、9時間・10時間かかっていたからです。

5才の私は京都から祖父母が来る嬉しさで東京駅にわくわくしながら迎えに行ったのを覚えています。到着し、祖母は私を抱きしめ、再会を喜んだ後、言いました。「ああ、しんど。」東京にいた私にとって“しんどい”って何?というのが最初の反応でした。今から思うと、長旅の後の疲れを表現したのでしょう。それからも、母と祖母が事あるごとにしんどい、しんどいと言う。僕たちが言う、かったるい・だるいという意味?と子供心に思っていました。今でこそ全国的に使われていますが、当時はれっきとした関西弁でした。でも体調不良の時の表現としては言い得て妙でした。

今、外来診療をしてつくづく思います。皆さんしんどい、しんどいと言われます。だるい、きつい、えらいとはまた違う不定愁訴の表現、ではどう対処させて頂いたらいいのか?ひたすら皆様の愁訴を聞かせて頂くしかないのです。長い時間外来で待って頂いて、答えが出ないのはすごく心苦しく、ストレスがかかることなのです。

岸田文雄首相、聞くのが特技だと言われます。でも、政治家として私より何千~何万倍もの人の話を聞くことになる、それは不可能としか言い様がないのです。もしそれが可能なら、ムーディー勝山さんのような特殊な能力をお持ちなのかもしれません。

“右からきたものを左へ受け流すの歌”

毎日、外来診療をさせて頂いて、診療後大きく息を吐いて思います。“ああ、しんど”と。そしてこれがまた明日へのエネルギーを作るのです。

人の話をよく聞くということは、静けさの中でそばに寄り添って、なのでしょう。