訪問診療をさせて頂いていつも思うこと、レントゲンもない、エコーもない、だから聴診・視診・打診、そして自分の第六感に頼るしかないのです。誰でも年齢とともに衰えていく心臓の機能。でも、在宅でほとんど動かずに暮らしているお年寄りからは、息苦しい・動悸がするという訴えを聞くことは少ないのです。もしそのような訴えがあった時は「医院に来て下さい。エコーをしましょう。」と御家族の方に連れてきて頂くことがあります。そのエコー検査でも心臓の駆出率は正常で、結構診断が難しいことがあります(収縮能の指標である駆出率が正常の心不全はヘフペフといわれ、駆出率の低下したヘフレフと区別されます)。「心臓は大丈夫です。」と言い、帰って頂く。その数日後、心不全で入院しましたとの御連絡を受けると、主治医として申し訳ないと落胆することが時にあります。そういう場合は、エコーでもわかりにくい心臓の収縮能より拡張能が低下していることが多いのです。
さて、心不全の治療にも朗報が…。高血圧の治療として使われているACE阻害剤、これはダメージを受けた心筋の繊維化・肥大等(リモデリング)を防ぐとされ、心不全治療の第一選択肢として使われてきました。それに、ナトリウム利尿の作用亢進のメカニズムを持った新薬が登場(ARB・NEP阻害薬)。今、私の最重症心不全の方のお役に立っています。肥大型心筋症の方、入退院を繰り返す。これ以上何をさせて頂けるのかなと思っていたところ、ARB・NEP阻害薬投与で著明に改善、今普通に外来受診をして下さっています。
私は以前から西洋医学よりホリスティック医療、薬はできれば使わないという方針を貫いてきました。でもそれは未病の状態、病気になってしまった方には西洋医学に頼らなくてはならないのです。
日々の診療で、血圧を異常に気にされるお年寄り、症状がない場合は「今まで80年以上守ってくれた血圧です。大事にしましょう。」「血圧がゼロは死ぬことなのです。だから死から遠いんですよ。」と言ってきました。私自身血圧が上がるのは慢性心不全の増悪のひとつのサインとなり得ると認識しながら、患者さんに過度の心配をして頂かないようにとトレード・オフでの診療をさせて頂いています。この方の血圧が高いのがよくないことなのか?これからは第六感を存分に働かせ、皆様の診療にあたらせて頂きたいと思います。
詩人サトウハチロ―さんは3歳の時、熱湯で大やけどを負い、その後遺症で家にこもりがちになる。クリスチャンだった母親はハチローさんをよく教会に連れて行った。教会の屋根には風見鶏があった。その風見鶏のとさかにハゼの葉が…。ハチローさんは後遺症で机の前に座らず、布団の上にうつ伏せに寝た状態で創作活動や読書を行っていた。ハチローさんのような繊細な感性で小さい秋(患者さんのささやかな症状)を見つけていきたいと思います。

小さい秋みつけた

誰かさんが見つけた 小さい秋見つけた
むかしの風見の鳥の ぼやけたとさかに
はぜの葉ひとつ 小さい秋みつけた

Angiotensin- Neprilysin Inhibition versus Enalapril in Heart Failure

Angiotensin receptor-neprilysin inhibition was superior to ACE inhibition alone in reducing the risks of death and of hospitalization for heart failure.
(The New England Journal of Medicine)