高齢者の“健康・幸福長寿実況”の実現に一番重要なことは、フレイルを予防するということです。フレイル(虚弱)とは健康と要介護状態との間の時期であり、このまま要介護になってしまうのかあるいはリハビリ等を通して健常を維持できるのかの大事な時期になります。

私も、有料老人ホーム、在宅で多くのご高齢の方を診療させて頂いて思います。2年半のコロナ禍は多くの方が外出を自粛する、そのため筋力虚弱に(サルコペニア)拍車をかけた。

この身体的フレイルだけでなく、うつ状態などの心理的フレイル、物忘れなどの認知的フレイル、そして独居、孤立などの社会的フレイル等、様々な面から高齢者を苦しめ、これが負の連鎖をおこし、自立生活ができなくなってしまうのです。

多くのご高齢の方はワクチン接種3回が終わっている。そして政府も行動制限を設けないと言っている。だから検査が陽性であっても発熱がなく、無症状であれば、隔離期間の短縮等の措置をとってもいいのではと思うのです。国も正しくリスクを恐れながらも高齢者のフレイルを防いでいく、ある程度のバランス感、そして勇気も必要となるのでしょう。

飯島勝矢東京大学教授はフレイル予防の3本柱として、“栄養”“身体活動”“社会参加”を挙げておられます。すなわち、①食による栄養と口腔機能 ②運動習慣も含む身体活動 ③地域での繋がりや社会参加ということです。

これを底上げするためには、やはり介護のスタッフの充実、そして家族のふれあいが不可欠だと思うのです。

この週末、少し面会規制が緩くなったので、東京の施設で暮らす老父母に会ってきました。96歳の父、91歳の母です。父は完全寝たきりで、時々誤嚥があり、数ヶ月ぶりにあう私を少し不思議そうに眺めていましたが、私のことはわかっていたようでした。

父は熊本の旧制第5高等学校出身で、若い頃いつも歌っていた寮歌を歌ってきかせました。すると、自分でも口ずさみはじめ、両手で拍子をとりはじめたのです。完全覚醒ですよね。ここからもわかります。フレイルを防ぐのに一番大事なのは、家族の面会・ふれあいです。

1967年にチュニジア出身の男性歌手ミッシェル・ローランが作詞・作曲したシャンソンに「サバの女王」があります。日本ではなかにし礼さんが訳詞し、グラシェラ・スサーナさんが歌っていました。

サバとは旧約聖書に登場するシバ王国のこと、女王はユダヤの王ソロモンの名声を伝え聞いてエルサレムに彼を訪ねた。女王はソロモンの英知や宮殿の壮麗さに打たれ、彼に心服したといいます。愛する人がいないと生きる力も砂時計のように目に見えて失われていく、だから日々のコミュニケーションは大切なのです。