私は心臓外科をする前は、消化器外科をしていました。すると多くのケースに遭遇します。胃癌・大腸癌等の手術をしても取りきれない、あるいは他臓器に転移がありそもそも手術が不可。そうなると副作用の強い抗癌剤に頼らざるをえない、でもそれによってかえって弱っていく方も多い。そして癌性疼痛が襲う。ここで登場するのが緩和療法(ターミナルケア)です。最近の私は在宅医療で、病院で手のうちようのなくなった方の緩和療法をさせて頂いています。疼痛に対して使う麻薬、意識レベルが落ちないようにしながら痛みを抑える適正な量を使う。これが非常に神経を使うのです。そして緩和医療は今の医療では為す術のない方が対象です。

WHO2002の緩和ケアの定義からです。

緩和ケアは

・痛みやその他つらい症状を和らげる
・生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える
・死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
・心理的およびスピリチュアルなケアを含む
・患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
・患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
・患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
・QOLを高める。さらに病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
・病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む

定義からだけではくみ取れない、医療従事者・患者さん・御家族は苦難の連続です。

アメリカの精神科医エリザベス・キューブラー・ロスさんは「死ぬ瞬間」の著書で死にゆく人が死を受け入れていくその過程を述べられています。

・否認…死を運命として受け入れられず、事実(検査結果など)を疑い、孤立する
・怒り…「どうして自分が」と怒りを覚え、周囲にぶつける
・取引…死の恐怖から逃れようとして、何かにすがろうとする(宗教、補完代替治療、寄付など)
・抑うつ…死は避けられないことを悟り、喪失感(ロス)に絶望し、なにも手につかなくなる
・受容…死を避けられない運命として受け入れ、心に安らぎを得る

そうなんです。末期癌の患者さん、身体的にも精神的にも追い詰められて、否認から受容までの間、各ステージごとに対応の仕方が変わる。
そして麻薬にも様々な副作用が。便秘・悪心・嘔吐・眠気そしてひどくなると過鎮静(声をかけてもたたいても目覚めない)・呼吸抑制、時に舌根沈下も起こりうる。だからきめ細かなケアが必要なのです。

翻って別の緩和療法はどうでしょう。すなわち政府・日銀の金融緩和です。日本の経済は長いこと病んでいる。今の状況を経済学者は一も地獄、二も地獄、すなわち金利を上げたら景気は悪化、緩和を続けたら円安が続く、あるいは1ドルが400円~500円にもなりうると言っている方がいます。それでも日銀は国債を爆買いし続けることしかしない。先行きの見えない将来に日本国民の多くが不安を抱えています。もしかして末期じゃないの?であるならば、政策責任者ははっきりと宣言してほしい。“預金封鎖も覚悟せよ!”“それでも国民の生活は守り抜くから”と。

Palliative cares for patients with intractable diseases require meticulous arrangements between patients and medical staffs. Not only physical pain, but also mental distress must be alleviated.