文藝春秋に著名な数学者でもあり、作家でもあられる藤原正彦先生が書かれているコラムがあります。今月号は“器械嫌い”でした。

先生は今78歳、この歳になって初めてスマホを購入したそうです。以下続きます。
「家族に“スマホならどこでも調べ物ができる”と言われて買って4ヶ月経つが、まだ電話とメールがやっとという状態なのでケータイと同じだ。」息子さんや奥さんはレストランをスマホで調べ、そこへの道案内までスマホにさせたりする。先生が使い方を尋ねると、奥さんには“相変わらず無能ねぇ”と言われるそうです。「しゃくなので取扱説明書を紐解くが、これがさっぱり分からない。情報機器の説明書はどれも理解不可能なのだ。例えば昨年買ったパソコンの説明書を開くと、はじめから片仮名の洪水である。アダプター、コネクター、セットアップ、バージョン、レイアウト等といった具合だ。私は99%の日本人より英語が上手いと思うが、とんと分からない。」先生によると数学者には器械音痴がしばしばいるそうです。そして物理学者にも。“パウリの排他律”で有名なパウリ博士や量子力学の父ボーア博士は実験が苦手で器具を壊してばかりいたようです。パウリ博士などは、彼が実験室に入っただけで計器が故障したといいます。

さて私の場合、もっとひどいかもしれません。最近でこそスマホで調べ物をしたりはしていますが、電子レンジの使い方もわからない、テレビ番組の録画、目覚まし時計の時間予約もできない、洗濯機も使えない。

藤原先生はその著書「若き数学者のアメリカ」からもうかがい知ることができるように、アメリカでも御活躍されました。

「器械嫌いの私が困るのはパソコンで、字を打つのに時間がかかりすぎることである。キーボードの字を一字一字探しながら、右手人差し指で打つからだ。十ページの論文に一週間~十日もかかる。もっとも外国にいた時は苦労がなかった。ミシガン大学では体重百キロのE嬢、コロラド大学では丸眼鏡の田舎娘J嬢、ケンブリッジ大学では中国系のS嬢などが私の魅力の虜となり、他の教官を差し置いて優先的に打ってくれたからだ。」そうなんですよね。私も米国留学中は教授の秘書M嬢が私の発音する英語を打ってくれて、データの統計処理もしてくれて論文が完成し、楽なものでした。

最後に先生は、「情報機器は科学技術の発展を著しく加速させた。何でもネットで簡単に予約できる。便利になり、人々に余裕が生まれたかと言えば、世の中の動きが早くなった分だけ、逆にせわしく追い立てられるようになった。」と言われています。

機械音痴の私が最近できるようになったこと、それは?
今物価高が進行していますが、意外とお米の値上がりが緩やかです。今後生き残るためにはせめてご飯でも炊けるようにならなくてはと思い、米を洗い、時間予約して炊いています。自分で炊いたご飯がこんなに美味しいとは!

I have no sense of machine. Boiling rice is fundamental act for a daily life, and I find it very simple to manipulate rice cooker.

ある方から言われます。“先生、楽しそうに仕事をしている。だから元気なんや”もしかしたらそうかもしれません。毎日追い立てられるようでしんどいけれど、そのお言葉のように、実は自分に合った仕事をさせて頂いているのかなと思います。

私はオンライン診療は絶対いや、対面診療でないと無理なのです。当時、医学部が不合格ならすでに合格していた早大理工学部機械科に行く予定でした。でも神様はみてくれていたのかもしれません。高校時代あまり真面目に勉強しなかった私を。当時から私達の高校は私服でした。“おまえ、そんな不真面目では機械を扱うことはできないだろう。人の命を考えなさい”と。