人は誰でも年をとれば記憶力が衰える。そして判断力も。昔は体の衰弱と共に認知機能が衰える。だから心身が同時に衰えていくことが多かったのです。
医療が必死に頑張って身体の機能を維持しようとする、そこに体とのアンバランスが生じる、すなわち心の叫びです。
この心の叫びをいち早く文学作品にして取り上げ、認知症の介護問題を世に提起したのが1972年に刊行された有吉佐和子さんの長編小説「恍惚の人」でした(もう50年前です)。恍惚とは物事に心が奪われてうっとりするという意味もありますが、この場合は病的に頭がぼんやりしている様を指します。80歳代の主人公は、暴言を吐き、徘徊し、乱暴になり、糞尿ともてあそぶ。男性便器を壊して長時間抱えていたり、夜中に便を畳に塗りたくったりと。ほどなく外出して行方不明になった直後、急死し小説は終わるのです。
このことに対して現在進行形の医療はどうでしょう。認知症の進行を遅らせる薬が出ましたと一時話題になったことがあります。でも、私の印象では興奮・徘徊等の副作用が出て、安定剤等の抗精神薬を追加したりして、症状が複雑に修飾され、わけのわからない状況になることが多かったような気がします。
米国のFDAは、日本とアメリカで共同開発された(Eisai-Biogen)アルツハイマー型認知症の治療薬を承認しました。脳内に蓄積するアルツハイマー病の原因となるベータアミロイドプラークを減らすという薬です。

IDA OK’s Eisai-Biogen Alzheimer drug.(Japan News)

今回の薬はよりアルツハイマー病の原因に踏み込んだ薬です。光明は見えたのか?
恍惚の状態は恋に溺れてぼろぼろになっても起こります。