米国カリフォルニア州出身のネルソン・バビンコイさん、シングルマザーの母親に育てられ15歳の時に群馬県に2週間留学し、三世代が暮らす家庭にホームステイされました。そこで家族や近所の人に温かく受け入れてもらい、“これがファミリーか”と気づいたと言います。
帰国してからも日本語の猛勉強、1番辛い単純な漢字の暗記もマスターして、夏目漱石、村上春樹、万葉集や古今和歌集、源氏物語まで日本の書籍を読破、私たち日本人より日本のことを熟知されています。それが子供たちが歌う米津玄師さんの「パプリカ」の英訳に繋がるのです。日本人の琴線にふれるような世界観を生かそうと、例えば歌詞の中に“思い出のかげぼうし”とある。日本人には共有できる子供の頃の記憶があるはず。だから“Memories will light the way back home”思い出は故郷への家路を灯りで照らしてくれるでしょう、いい感じですね。
先日の小椋桂さんの愛燦燦、小椋さんの意味深長な絶妙な表現、これは誰もが英訳に苦労するでしょう。
ああ未来たちは人待ち顔で微笑む 人生って嬉しいものですね
Diazepan Medinaさんの英訳です。
The future days smile with looks of expectation
Living is pleasant, isn’t it?
未来は期待顔で微笑む 人生は楽しいですねとでも訳しましょうか。少しあっさりしているかな?
そしてピーター・J・マクミランさんです。奈良時代、すなわち平安時代以前で都は京都ではなく、朝廷は遷都を繰り返していた時代、最古の和歌集が生まれています。当時の実際に生きた人々の記録です。
人間と自然の距離の近さを感じる時代、多くの歌が詠まれました。百人一首でも有名な持統天皇の歌があります。“春過ぎて夏来たるらし白妙の夜干したり天のかぐ山”(春が過ぎて夏が来たらしい 真っ白な衣が干してある 天の香具山に)
マクミランさんの解釈は?持統天皇の時代、すでに季節は暦法により把握されていた。だから何となく春から夏になったといった曖昧な感覚ではなく、暦法で今、春から夏に変わった。そしてそれを目前の風景を通して実感する、その点にこの歌の新しさ、感動があるというのです。奥ゆかしさの極みです。そして現代語訳より的確ですね。
Spring has passed, (春は過ぎた)
and summer’s with robes air on the fragrant slopes of Mount Kagu beloved of the gods.
fragrant(香り高い)という言葉、香具山にかけているのでしょうか?(英語で味わう万葉集)