剣をとっては日本一に 夢は大きな少年剣士
少年剣士 金野鈴之助、父親の形見である赤胴(防具)を着けることから赤胴鈴之助と言われた。日本の漫画作品です。修行を積んで、いかなる苦難にも負けず正義の道を貫いていく。そして圧巻は“真空斬り”でした。
「オーリャーッ」の掛け声で剣や手でつむじ風を起こし、あっという間に大勢の悪党をなぎ倒します。つむじ風がどんどん大きくなり、竜巻になるのです。子供心にすかっとする瞬間でした。
さて、外科医たるもの誰でもメスをとっては日本一に、を目指したいと思うでしょう。心臓外科医としては、予期せぬ事態(例えば大出血等)に瞬時に対応する判断力でまず差がつきます。では技では?心臓には血液が逆流しないように4つの弁があります。特に、高い圧力が出る左心室から左心房への逆流を防ぐ僧帽弁、この弁が壊れた時(僧帽弁閉鎖不全症)は心不全状態となり、それを自己の弁を残したまま修復する僧帽弁形成術は高度な技術を要し、外科医の腕の見せ所です。
僧帽弁は開閉する膜の部分、弁尖(前尖・後尖の2尖あります)、逆流しないようにそれを支える左心室からのびる乳頭筋と、そこから弁尖までのびる紐状の腱索で構成されています。前尖・後尖が裂けたり穴があいたり、腱索が切れたり伸びたり、乳頭筋が傷んだりすると僧帽弁閉鎖不全症が生じます。
上記の弁組織を全て温存し、なんらかの手技で修復するのが僧帽弁形成術です。形成術後、左心室の圧力に弁が耐えてくれるかな、逆流が再発しないかな、そう思う外科医は未熟なのです。
一方で形成術を逃れる、いわば逃げの一手があります。それは人工弁に置き換える方法(置換術)です。カーボン材でできていて寿命が半永久的な機会弁、牛の心膜や豚の大動脈弁を加工した生体弁があります。
いずれも確実に逆流は止まりますが、機会弁はその周辺に血栓がつきやすいので一生抗凝固剤を服用する必要があります。(脳出血等のリスクを一生抱えることになります)生体弁は耐用年数があり、10~15年後に再手術をしなければならなくなるのです。そして置換術は、弁組織を切除するため、弁と心筋のいわば作用・反作用の力関係がなくなり、左心室内の血流に変化が生じ生理的ではなくなり、心機能にも少なからず悪影響を及ぼします。
以上のことから弁形成術が圧倒的に優れているのです。残念ながら私の恩師中村教授は、当時まだ弁置換が主流だったこともあり、弁形成術はあまりされませんでした。私自身も弁形成術の習得に必死でした。
そこで誰を師と仰ぐか?身近に早々から弁形成術を手掛けられ、全国でも有名な先生がおられたことは私にとって幸運でした。神戸中央市民病院を退任された後、今でも西区のみどり病院心臓弁膜症センターで御活躍の岡田行功先生です。
学会・研究会で先生の手術のビデオを拝見したり、論文を拝読したりして弁形成を学んでいきました。やっと自信がついてきた頃、心臓外科を辞めることになり、心残りでしたが開業した今でも御指導頂いています。
Completely perfect valvuloplasty is a kind of masterpiece in cardiac surgery, and valve replacement could newly make another disability, if anything, prosthetic disease.