ラストダンスは私に
今のコロナ禍で在宅医療に明らかな変化が見て取れます。
老々介護に加え、コロナによるストレスでへとへとになっている介護をするご家族の方が急増しています。患者さんが次第に衰弱していく、その過程で医師・訪問看護・ケアマネージャー等がご家族と相談しさんざん悩んだあげく、家で看取るか、入院かを時間をかけて決めていくのが今まででした。ところが割と淡白に、“もう疲れた、家ではみれない。入院させてください。”あるいは“入院させたら面会もできない。なんとか頑張って最期まで看取りたい。”いわばご家族が二極化してきているのです。
家で看取るということ、医師である私にとって50の半ばを過ぎた頃から体力の限界を感じるようになってきました。状態が悪化する患者さん、亡くなる2~3週間前からはいつコールがかかるかな?安眠ができない。そして呼吸停止の連絡を受けると、夜中にも訪問したものでした。そんな私がその後、10年以上在宅医療に関わらせて頂けているのは他でもない、訪問看護ステーション及び介護に携わる方々との良好な関係、そしてその方々の私に対してのお心遣いに尽きるのです。
患者さんの状態変化のファーストコールは訪問看護師さんが受けて下さる。そしていよいよ近いという時、“先生、何時までだったらコールしていいですか?夜中だったら朝一番に連絡しますので…。”こうして私の負担は激減しました。
息苦しそうな患者さん、訪問診療時“〇〇さん、大丈夫ですか?”それに対する答え、弱々しいながらもはっきりと“訪問看護師さんが毎日来てくれるから頑張ります。”
さてここで…。日本では越路吹雪さんで有名な「ラストダンスは私に」という曲があります。シャンソンでも歌われ、英語ではドリフターズの「Save the Last Dance for Me」で知られています。作詞者のドク・ポーマス氏は小児麻痺の影響で、脚に金具をつけ両手で松葉杖をついて歩くという状態にあったのです。あるダンスパーティーで、自分はこんな状態だからダンスはできない。愛する人に言います。「君は思う存分他の人と踊りを楽しみなさい。もし、君が僕の手を取って肩に手をあててくれれば、松葉杖をついてでも踊る。だからラストダンスだけは僕の為に残しておいてくれ。そして一緒に踊ろう。」ドク・ポーマス氏の思いが伝わってきますよね。
さて戻ります。そうなんです。24時間いつでも訪問して下さる訪問看護師さん。だから、患者さんが最期の時、いつもの看護師さんにいてほしい、ラストダンスは私にと思われるのも当然のことなのです。感謝です。