これまでにお話してきました私の人生、紆余曲折で際どい局面がいくつもありました。すると、すぐ思い浮かぶのが鶴田浩二さんの歌「傷だらけの人生」です。この歌はセリフから始まります。「古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます。どこに新しいものがございましょう。今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか。」本当に真っ暗ですね。
私の中学・高校時代は自分で何も決められず、時の流れに身を任せてふらふらと過ごしていました。私も古い奴なので、また記憶が途切れるほどの昔の歌を紹介します。奥村チヨさんの「中途半端はやめて」という歌です。もしも私に当時、ガールフレンドがいたら常に言われていたと思います。“中途半端はやめて 苦しいだけだから どっちかはっきりさせて 好きなの嫌いなの”って。当時の私は、ただ偏差値が高いから医学部に行こう、クールファイブの「そして神戸」の歌で神戸に行こう、ブラックジャックに憧れて外科医になろう、深い考えもなくそんな感じでした。でも、その流れが変わったのは人の命のすべてを自分に託される心臓外科をさせて頂いてからです。
心臓の手術でまず最初のドラマティックな場面、それは心臓の代わりをするポンプを回す(体外循環)、そして心臓を冷やして止めていく。心臓が止まったその瞬間、体の全循環を体外循環に替えて心臓にメスを入れます。その時に鋭い眼光、大きな声で手術の担当の看護師さんに“メス!”と手を伸ばします。一緒に手術をしていた後輩の医者が言いました。“うわぁ、先生。この瞬間に性格が変わる。”そうです。命を懸けていたのです。もしかして私は人からは温厚と思われているかもしれません。いや、本当に温厚かも。でも、後輩にとっては物凄く怖かったみたいです。そして今思います。残りの人生心臓外科で培われた決断力で生きていこうか、いやそろそろ中途半端はやめてと言われながら生きていこうか。中途半端で生きていく方が確かに楽です。今またひとつ人生の分岐点です。
I had lived an undecided life, until I began to be in charge of cardiac surgery, which requires immediate decision, affecting directly patients’ lives.