再び「こころ彩る徒然草」からです。
第93段です。
存命の喜び、日々に楽しまざらんや
今、生きている。この喜びを日々楽しもう。
第38段は名利に使はれて、閑かなる暇なく、一生を苦しむるこそ愚かなれ
木村耕一氏の意訳です。悪口を言われたら“悔しい”“恥ずかしい”と思いますが、言った人も聞いた人もすぐに死んでいきますから気にしなくてもいいのです。
このように兼好さんはもっと明るく、もっと楽しく生きるヒントを現代人にも伝えてくれています。
アメリカでアップルコンピューター社を設立し、革新的な事業で大成功したスティーブ・ジョブズ氏は若いときから日本文化が大好きでした。仕事の進め方、信念を語る言葉の中に、まさに“徒然草”そのままといえるメッセージがありました。
生きる喜びはどうやって得られるのでしょうか?愚かな人は、この生きる喜びを得ることを忘れて、金銀財宝や地位名誉などの楽しみを追い求めています。しかし、人間の欲にはきりがないので、どれだけ集めても満たされることはありません。そんなことで、万金より価値のある1日を使うのは危なっかしくて見ておれないのです。なぜ人は皆、心から生きる喜びを味わうことができないのでしょうか?それは“死”を恐れていないからです。いや、恐れていないのではなく、“死”が近づいていることを忘れているからなのです。
そうなんです。人は誰でも死にゆくもの。死を見つめることにより生が輝く。以前私もそんな思いで「いのちの響」という歌を書きました。
岩をもくだく荒い波 今日はきらめく群青に
そんな時 人は自然のうつろいを感じる
ごらん あの海 あの空を
僕らの命をたたえているよもしかして もしかして 生きることと死ぬことは
同じことなのかもしれない
ああ人生は 限りあるものだから
今こそ輝け 今こそ響け
Since our lives are limited, we want to live each and every moment gracefully. Tsurezuregusa teaches us many lessons about how to live our lives.
第7段で兼好さんは言っています。人間ほど寿命の長いものはありません。カゲロウは飛び立った日の夕方には亡くなります。夏しか生きられないセミは春や秋を知りません。それに比べると人間の1年間は格段にのんびりと長いものなのです。もし、その1年さえも悔いなく過ごせず、“もっと長生きしたい”という人は、たとえ千年生きたとしても最期に“ああ一夜の夢だった”と嘆くにちがいありません。せめて壮健な40歳までに人生の目的を達成し、いつ死んでも悔いの無い生き方をしたいものですね。
命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。かげろうのゆうべをまち、夏のせみの春秋をしらぬもあるぞかし。
みなさん、一瞬の時間を無駄にしないように生きていきましょう。毎日毎日を愛しく思いながら。
時がたおやかに過ぎていくのを祈りましょう。