精神科医 和田秀樹先生の書かれた「80歳の壁」

ラクして寿命を延ばす方法、それは嫌なことを我慢せず、好きなことだけをすること。“食べたいものを食べる”“血圧・血糖値は下げなくていい”“ガンは切らない”“オムツを味方にする”“ボケることはこわくない”等です。

ラジオの朝の番組で、和田先生が話されていました。これからの超高齢化社会への対応の方法です。年をとれば、ほぼ全ての人が多かれ少なかれ認知症になる。そして失禁等の下の悩みが出現します。でも殆どの人がオムツを嫌がるのです。和田先生は言われています。先生自身心不全を患われ、利尿剤を服用されていて、どうしてもトイレが近い。だから時にオムツをされている。日本のオムツの質は最高なので、「オムツを味方にしろ、オムツを恥じるな」と。私も賛成です。オムツをすることでお年寄りがトイレを気にせず外出できるようになり、ADLが改善されることになると思うからです。

さて少し古いのですが、和田先生の著書に「医者を目指す君たちへ“君がブラックジャックになればいい!”」があります。

その中で高齢社会における医者のあり方という章があります。現代社会において、大学病院が医療の中心的役割を担うことに疑いの余地はありません。今までの医学の教育は人間をいくつもの臓器の集合体に見立てて、その一つ一つの臓器をしっかり診られるようにするというのが基本方針で、この考えに基づいて医学はどんどん専門に分化していったのです。それが最も顕著なのが大学病院です。大学病院にはもはや内科という科はない。循環器科・消化器科・呼吸器科等です。いくつもの病気を抱えるお年寄りは、いくつもの科に罹らないといけないし、いくつもの専門の検査を受け、それぞれで薬を出されるので膨大な量の薬を飲まされることになる。多剤併用という、かえって寿命に悪影響が出ることになるのです。そして大学病院の多くの科に通って検査を受けられるのは“元気な老人”です。

大学病院に通院できずにいるもっと高齢でフレイルの方にとって必要なのは、多くの病気を抱える一人の患者を総合的に診られる医者なのです。その意味で私達開業医が果たすべき役割は大きいのです。

専門的な教育しかしない大学病院では、老人科ですら“元気な老人”ばかり診ているから、高齢者医療の難しさをよくわかっていない。それより大学病院に通えないような80歳代・90歳代のお年寄りを実際に診る機会の多い町の開業医の方が、大学病院老人科の教授よりはるかに高齢者のことをよく分かっていて、適切な治療技術を有していることが多いのです。

和田先生はデータを出されています。大学病院の多い地域ほど平均寿命は短いと。だから医療の高齢化・専門分化が必ずしも高齢者の健康寿命に対して寄与していないという実態が浮き彫りになってきているのです。

命を救うための医療が実は長寿に役立っていないとしたら、そして大学病院で治療を受ければ受けるほど家に帰る望みが減るとしたら。早急に高齢社会にマッチするような医療体制を構築する必要があります。お家がだんだん遠くならないように。

Clinical departments in university hospitals are subdivided into small ones by organs, where few doctors can see patients comprehensively.
This is a serious problem in the graying society.

2007年に日本の歌百選に選ばれた童謡に「あの町この町」があります。野口雨情作詞・中山晋平作曲のこの歌は、野口全盛期の作品で1924年に作られました。作曲家の中山はこの歌を口ずさみながら逝去したと伝えられています。

「あの町この町」

あのまちこのまち 日がくれる 日がくれる
いまきたこのみち かえりゃんせ かえりゃんせ

おうちがだんだん とおくなる とおくなる
いまきたこのみち かえりゃんせ かえりゃんせ