私が外科の研修医の時代(40年前)、主たる手術は虫垂炎(盲腸)、そして胃潰瘍でした。今盲腸で手術することはほぼ皆無、これは一つに抗生物質の発達と衛生の改善によるところが多いと思います。そして胃潰瘍、食生活の西洋化で肉食になる、胃酸の分泌が多くなり、出血したり、胃壁が破れる穿孔で腹膜炎になる等、当時は胃潰瘍を放っておくと胃癌になるから、胃の切除をしましょうと勧めたものでした。でも今は、この手術もほぼ皆無。その一つの理由として、やはり薬剤の進歩です。こうして今病気が減って、それはそれでいいことなのですが外科医のトレーニングをする場が少なくなってきています。
先程の胃酸過多を抑え、出血性胃潰瘍も治癒させてしまう強力な薬剤とは?ボノプラザンフマル酸塩という従来のプロトンポンプ阻害薬(PPI)とは違う新しい機序で酸分泌抑制の効果出現が速く、強いものです。今までのPPIは効果を発揮するためには、胃酸による活性化を受けなければなりませんでした。一方ボノプラザンフマル酸塩はその必要がなく早く作用する、そして酸性の環境下でもより安定なため作用が持続するのです。この薬はヘリコバクターピロリ菌(通称ピロリ菌)の除菌にも使われています。
さてピロリ菌は、胃の表層を覆う粘液の中に住み着く菌で、慢性胃炎・胃潰瘍・胃癌などを引き起こすとされています。ピロリ菌の感染率は衛生環境が関連するといわれており、日本では中高年に多く、若年層では減少傾向にあります。現在我が国の清潔環境の中、ピロリ菌の感染が減る、そしてピロリ菌を除菌する人が増える等で、ややこしい話ですが今後は逆に、胃酸過多の方が増えてきています。ピロリ菌が胃酸を中和しているからなのです。
だから最近、胃酸が食道に逆流する逆流性食道炎(GERD)が多くみられます。症状としては胸やけ・げっぷ・喉の違和感等があります。逆流性食道炎はすぐに命にかかわるような病気ではありませんが、就寝前に食事をすると寝ている間に胃液が喉まであがってくることがあります。体は胃酸が気管に流れ込むのを防ぐために、気道を塞ごうという反応を起こします。これが睡眠時無呼吸症候群の一つの原因となります。
前述のボノプラザンフマル酸塩が効果的なのは言うまでもありません。口が酸っぱい感じがしたらGERDかもしれません。

Sour experience may be caused by GERD.。