心臓外科医がよく遭遇する病気に“大動脈瘤破裂”があります。胸部・腹部を問わず救急で運ばれてきた患者さんの体の中は血の海です。海外・国内で手術に参加させて頂いた私は、自分の体中が血まみれというのは日常茶飯でした。それも、様々な感染症を持っている方々の…。そして、無数回の手術針が手に刺さる。だから自分は病気の宝庫と確信し、調べたらいろいろ見つかるだろうと一切健診もせず、逆に大概の病気に抵抗があるだろうとワクチン接種を受けたことがありませんでした。でも、今回は患者さんにうつしてはいけないとコロナワクチンを打つことにして、一昨日接種を受けました。
従来のワクチン(インフルエンザ・麻疹等)は、ウイルスの病原性を弱くし、あるいは不活化し、それを注射して抗体を作るというものです。今回のワクチンはmRNAを使う(DNAと似た構造物であるが、DNAは主として核の中で情報の蓄積保存を担うがRNAは情報の一時的な処理を担う)。筋肉注射後、細胞内に入り込み(コロナウイルスが人の細胞内に侵入していくのに必要な)スパイクタンパク質を作るように命じるのです。大量に作られたスパイクタンパク質に対する抗体ができ、スパイクタンパクを持つコロナウイルスが無力になるというのが簡単な筋書きでしょうか?
さて接種時、痛くも痒くもなく帰宅。でも上のようなことが、自分の60兆の細胞内で起こっているのだと思うと、体が変わってしまう、大丈夫?など変なイマジネーションがわきました。早朝、手の脱力感で目覚め、接種部位から頚部にかけて痛みました。やはり、このワクチンはただものではないぞ、でもこれからのウイルスとの闘いにおいて、避けて通れない道かなとか考えているうちに数時間で痛みが消えていきました。2回目も覚悟を決めて接種します。
このような遺伝子レベルの素晴らしい医学の進歩、実は自然界で起こっている現象、細菌がウイルスをやっつける時のメカニズムの科学的な理解、すなわち細菌はRNAの断片を使い酵素にウイルス破壊を命じているということに起因しているのです。その意味で自然は美しいとタイム誌は述べています。

Great inventions come from understanding basic science. Nature is beautiful that way. (Time誌)