先週、当院のカルテの番号が3万を超えました。すなわち、3万人以上の方を診させて頂いたことになります。平成9年6月に開業させて頂いて…。皆様の御支持・御指導・御鞭撻に深く感謝させて頂きます。
メスを置いた心臓外科医って本当に何もできない、そんなことを思った時期でした。厳しい外科医の研修、不眠不休の毎日、やっと解放されるかなと思った時、またしても想像を絶するストレス。それは今までの人生にない類のものでした。そうです、経営です。開業して約3か月、1日の平均患者数が1桁、そして預金残高は雪だるま式に減っていく。“ああ、もう胃に穴があく”私の専門の循環器患者の方はそう簡単には増えない。まして、私の勤務していた市民病院からは離れた全く知らない土地に、落下傘のように降りてきたものですから。
待っていても患者さんは来て下さらない。そこで外来患者さんに自分の携帯の番号を教えて、いつでも連絡下さいと。この時から医院での寝泊りの日が続きました。往診の数も増え、そして冬になる、インフルエンザ・風邪の患者さんが増えてきてやっと離陸体制に入ったのです。
ここでも恥ずかしい話ですが、インフルエンザと風邪ってどう違うの、というレベルの医者でした。外科医の時代はただ生の臓器だけを見つめていました。今は人と人の関係で付き合わせて頂いていること、それが何よりの幸せです。
そして今、連携病院の大切さ(みどり病院等)、外来を手伝って頂き、少し時間の余裕ができました。ありがとうございます。
自分はこんなことを言えるほどの者ではない。でも、こうありたいと思うのです。ハーバード大学の哲学者マイケル・サンデルさんの“Justice”からです。人間の能力は何かを得られることによってのみ発揮される。しきたりに従えば満足な人生を歩み、危険を遠ざけておけるかもしれない。だが、その人の人間の価値はどうなるのか。本当に重要なのは人が何をするかだけではない。それをする人がどんな人間であるかも重要なのだ。
The human faculties of perception, judgement, discriminative feeling, mental activity, and even moral preference, are exercised only in making a choice.